英国生活日記
 
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2006年3月16日を表示

新薬治験の事故に思う

昨日から英国では、新薬治験で起きた重大な事故のニュースで大騒ぎになってます。事故の内容は日本では報道されてないっぽいですが、だいたいこんな感じです。

リウマチ及び白血病治療新薬のためのフェーズ1治験がParexel社によって行われ、テストを受けた健常な男性ヴォランティア8名中、プラセボを投与された2名以外の6名全てが重篤な症状を示して病院に搬送された。

全員、ICUで懸命の治療を受けており、6名中4名は意識があり、わずかながら回復の兆しを見せているものの、残る2名は危篤状態(完全に植物状態)が続いている。

Parexel社によれば、この治験薬は規則に準拠して全ての必要十分な前試験(動物実験を含む)を通してあり、今回のような副作用は全く持って予想外であるとのこと。

治験に参加してプラセボ投与だったことにより難を逃れた人によると「まるでドミノのように次々と倒れていった。みんな、シャツをかきむしり、口々に熱いと訴え、頭が爆発しそうだと叫ぶ者もいた。」ということである。


↓ニュース元
Six taken ill after drug trials
Drug trial families given apology
Drugs volunteer's 'living hell'

ショッキングなニュースです... 薬の開発にどんなステージであれ、かかわった事のある人はみんな非常に複雑な思いでこのニュースを聞いているんじゃないかと思います。 もちろん一般の人はただただ怖がってますよね。

Parexel社のコメントによると今回投与された薬剤TGN 1412は抗CD28モノクローナル・アゴニスト抗体(アゴニスト:レセプターに働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す作動薬)で自己免疫・炎症性疾患と血液悪性腫瘍のための治験薬とのことです。要するにいわゆる化学合成品ではなく遺伝子工学的に作られた生物薬なわけです。

ちょっと薬の具体的な作用機序とか、どんな前試験を経てきているのかの詳細がわからないのでなんとも言えないんですが、とりあえず現在のところ、このリアクションが生産工程の問題やコンタミネーション(純度の問題)なのか、もしくは投与量に間違いはなかったのか、そして更には薬剤が全く予想不可能な副作用を人間に対して持っていたのか、などについての調査が順に行われているというところのようです。 

いろいろ読んでいる範囲ではきちんと正しい条件下で行われていて、ずさんな管理とかそういう印象は受けないですね。 さすがフェーズ1だけあって、この治験が行われたユニットは病院内にあり、何か起こっても即時ICUでの集中治療に移行できるようになっていたわけです。 まさか、それが実際に役立つ日が来てしまうとは関係者誰も思ってなかったことと思います;;

私が一番気がかりなのは、この事件でまた動物実験反対派が勢いづいてしまいそうだ(実際既に議論が熱く盛り上がりつつある)ということです。 この問題、難しいんですよね。「動物で試験してもこんな事故が起きるんだったら、そもそも動物実験をする意味はない」という意見が上がってくるのはわかるけれど、動物実験をしなかった場合の人間へのリスクは更に高くなること確実ですし。 

新しい薬剤を試す場合、一般的には一番最初の段階はセルラインといって、培養細胞でのテストから始まります。 セルラインはだいたい元は癌細胞で、それを、培地で培養できるようにしたものですね。 そこでまず基本的な細胞毒性とかのデータを取って、その後、段階を追って小動物から大動物に試していくわけです。 基本的に細胞と生物体そのものだと反応がずいぶん違うので人間由来の細胞で試したからOKってわけにいかないのがなんとも辛いところ... もちろん動物で試したから100%大丈夫とも言えないのが弱いところなんだけど。

全てのプロセスを正しく経てきて、治験自体になんの問題もなくて、なおかつ人体でのみ今回のような特別な反応が起こるなんてことが本当にあるんでしょうか。個人的にはそんなことないほうがいいなと思う。 でもそうだとしたら、どこかに人為的なミスがあるということで。 それはそれで嫌な話だけど、その方が理解しやすいなと思うのでした。

いずれにせよ、全ての方が可能な限りの回復をされるよう心から祈っています。 現状を見る限り、かなり後遺症は残りそうな気配ですが、とにかくまずは命が助かってくれるといいなと思います。

<追記>
Guardianに非常にうんうんとうなづきたくなるようなコラムが上がってました。 できたら後できちんと訳してここで紹介したいなと思いますがとりあえず時間ないかもしれないのでリンクだけ貼っておきます。英語読める方はぜひ読んでみてください。

We need animal experiments

<追々記>
動物実験は、マウス、ラット、そして犬だそうです。 ...サルとかウサギとかブタは??? 犬はあまり人間と似ていないので犬だけじゃ足りないんじゃないかと思うんですが;; やっぱりこの国の動物実験ガイドライン読んでみないと理解できないかな...この問題(汗

もうひとつの問題としては、このモノクロ抗体は人間にフィットするように遺伝子的に調整されて生産されているので、動物ではうまく試験ができないんじゃないかというのもあるんですよね。 だからもしかしたらこの手の薬に関しては動物実験は無意味と言えるかもしれない。 本当に複雑で難しい問題です。



3月16日(木)16:36 | トラックバック(0) | コメント(2) | 英国ってこんな国 | 管理


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