英国生活日記
 
帰国後日記はhttp://astor.blog7.fc2.com/で書いてます。ヨロシクです♪
 



新薬治験事故続報と起こったことの理解

事故の被害者6名中4名は、まだまだ重症ながら、意識もはっきりし、自力で機能する部分も増えてきているようです。残る2名はいまだ生命維持装置の力で生かされてる状態だと思いますが、明るい材料も見えてきたとか? まだまだ時間はかかるでしょうが、なんとか回復してほしいです...

今回の治験に使われた薬、抗CD28モノクロ抗体は、いったいどういう薬なのか、小難しい名前の羅列でわからない方も多いと思います。思い切り平たく言うと、白血球に結合して、白血球の持つ免疫機能を活性化する、と考えればいいと思います(まだ難しくてわからないぞーという人もいそうですが;;)。 見るからに難しくて目が滑ります、という方はアンモナイトさんの記事へどうぞ(ノ_・。 あちらはずっとシンプルです(笑)

健康な人の免疫システムはきちんとコントロールされているので、細菌など、外部から入ってきたタンパク質に対してのみ活動するんだけど、今回の場合は、投与された抗体によってこの白血球がものすごい勢いで活性化された結果、自己免疫疾患(コントロールがおかしくなって、自分の細胞の成分を攻撃してしまう)と同じような(過激かつ急激な)炎症反応が全身で起こってしまったわけですね。 従って治療も自己免疫疾患の劇症例に近い方法が取られていると思います(大量のステロイドの投与が一番有効)。 

なぜこんな事故が起こってしまったのかについても専門家が様々議論をしています。論議の焦点は

1.治験薬の製造プロセスの不備があったか? 
←純度やコンタミネーションの問題など

2.投与量に問題はなかったか?
←いわゆるHuman errorの問題ですね

3.治験のプロトコールに問題はなかったか?
←投与計画とか、行われる施設の装備などに問題があったかどうか。

4.前段階の動物実験は適切だったのか?

といったあたりです。1に関しては今のところ特に問題点はあがってきていないようです。製造会社は大きな製薬会社なのでそのあたりはしっかりしている様子。 2の投与量についても、動物実験で確認した致死量の500分の1という量なので、それを間違えて500倍以上を投与してしまうということはちょっと考えにくいのでこれも問題なし。

しかし、プロトコールに関しては少々論争があるようです。というのも、今回の治験で6名は全て同時に同じ量を投与されているんですが、初回の実験の場合、量は何段階かに分けてせいぜい2名づつくらいで変え投与すべきなんじゃないかと疑問を投げている研究者が何人もいます。 これに関しては私もそう思うんですが... しかし、実際にこの手の治験に関わる研究者からは現場ではこれはごく普通に行われていることなので問題ないという反論です。 う~ん、どうなんでしょう? このあたりは今回の事故を教訓に徹底されるんじゃないかな? 

これまで世の中に出た抗体薬は、たいていなんらかの作用の抑制をするものだったのに対し、今回のTGN 1412は作用を促進する方向に働くものだというのも今回、議論の対象になっているようです。健康な人体では既に免疫は必要十分に働いているので、それを刺激して機能促進するということは免疫過剰になるわけで...当然アレルギー反応様の症状が出ることは予測の範囲です。それは副作用とは違うんじゃないかと。

そして最後の、これが一番世論を刺激しているであろう問題です。 果たしてこの薬に対する動物実験は正しく必要十分に行われたのか? そもそも動物実験に意味があったのか?

通常の化学合成で作られた薬品の場合は、動物実験の意義は疑う余地もないんですが、今回の場合、生物薬であり、この薬が作用するターゲットは「人間の白血球の上にあるレセプター」なわけです。 CD28はもちろん動物の白血球にも存在しますがこの抗体はもしかしたらヒトの白血球のレセプターに特異的に強く作用するんじゃないかと言う疑問が否定できないのです。 なんせ、今回の抗体、遺伝子組み換えによって、ヒト型にしてありますからね... というわけでそもそも今回の場合、動物実験では事前の副作用予測が困難だったのでは、という意見が、専門家からあがっているのでした。

難しいです。こういった遺伝子組み換えによる薬は近年、多くの研究開発が行われていて、これからもどんどん治験に上がってくると思います。 つい最近、NHSでニュースになっていた、乳がん治療のホルモン療法薬、ハーセプチンもこの仲間ですね。 ここで徹底して前段階試験のシステムを再検討しないと将来的に似たような事故が起こる可能性大ですね。

もっと怖いのは、この事故が発覚した瞬間から俄然勢いづいている妄信的な動物実験反対論者の存在...「ほら見ろ、動物実験してもこんな事故が起こるんだから、そもそも動物実験になんか意味はないだろう」 という意見が実際に聞かれているのです。 でもそれは違う。 いつかはきっと動物実験のいらなくなる日が来る。 でもそれは今じゃない。 未だに医学は万能じゃないのです。自由自在に臓器とか作り出せる日が来たら、その時は罪のない動物を苦しめなくて済むかもしれない。 その日が一日も早く来るといいと願っているのは誰よりも動物実験をする研究者だと思います。

この薬、最終的には死を待つしかないような患者さんにとってまごうことなき朗報になるであろうものなだけにここで開発が頓挫してしまったら悲しすぎます。 投与量を徹底して見直したら使えるんじゃないのかなと思うのでなんとか持ちこたえてほしいんですが...


<蛇足>
長々書きましたが、私、免疫はめっちゃくちゃ苦手分野なのです・゜・(ノД`)・゜・ 自分でも理解できてるかどうか自信ないので、どこか間違ってたらご指摘よろしくお願いします(汗



Mar.18(Sat)03:04 | Trackback(0) | Comment(7) | 英国ってこんな国 | Admin

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はじめまして

初めて来ました。私は大学の研究室で秘書として働いているのですが、消化管運動の研究をしている大学院生がイヌを使って実験しています。オペの翌日死んでしまっていた、とか自分のミスでオペ中に殺してしまった、とか日々苦しみながら実験をしています。それでもいつかそれが無駄ではなかったと言える日がくることを信じてやっているそうです。あすとるさんの言うように、研究者が一番辛いのかもしれません。

 by 蘭 | Mar.18(Sat)16:55


>蘭さん
初めまして^^ コメントありがとうございます!
そうなんですよね。研究者は実験に使う動物をかわいがって世話してますので、やはり殺すのはいつでも辛いです。それでも本当に必要だと感じればやるしかないですので...
一般の人たちに、理解していただくのは困難な道であることはわかっているのですが、少しづつでも分かり合えたらいいなと思います。


 by あすとる | Mar.19(Sun)03:30

難しい

トラバ、ありがとうございました。
もう既にニュース自体も、話が専門的になりつつありますし、さらにこの事故の原因とか動物実験のこと、ひとを使った実験のこと(含モラル)…なんてことを考え出すと、ほんとにわからなくなっちゃいます。
とにかく事故に遭われたボランティアの方が少しでも快方に向かわれることを祈るばかりです。

…英国は、「動物実験」に関しては過激派が多いですもんね。この事故が、UKでの新薬開発の阻止に、不条理につながらないといいですね。


 by みら | HP | Mar.20(Mon)10:35

とてもよくわかりました

はじめまして。
大学では脂質生化学(Ganglioside)の研究をしていて、現在は技術系事務職でリウマチ患者のNardyと申します。
このニュース、BBCで見てから、患者の一人としてとても気になって毎日チェックしていたのですが、内容が難しくてなかなかうまくりかいできなかったのですが、あすとるさんの文章で「そういうことか!」と合点がいきました。
ヒト型タンパクの罠、なのでしょうかね。やはり。可能性は高そうですね。

ぜんぜん話は変わりますが、うちのツレがShay Given好きで、2002年のワールドカップ後の夏休み、恒例のアイルランド旅行に出た際に一緒にLiffordまで行ってきました(^-^)。


 by Nardy | Mail | Mar.20(Mon)22:37

     

>みらさん
うんうん、考えるべきことが多すぎてややこしいですよね。私もくらくらしてます。動物愛護過激派も心配ですが、とにかくまずは被害者の方の回復ですよね。

>Nardyさん
初めまして!脂質生化学やってる方からコメントいただけるなんてびっくりです。マイナーなジャンルですもんね(笑)私にとって糖脂質は難しいのであまり触れたくない分野の一つです(爆 とはいっても、どうしても無関係ではいられないですけど(苦笑

この問題なかなか読み込むほどにややこしいんですが、やはり組み替え動物で産生したヒト型タンパクってところがキーっぽいですね。自分の理解のためにも原因究明まできちんと追いかけたいと思ってます。

そしてギブン好きのパートナー様がおいでとは!! なんてうらやましい~(笑) よろしくお伝えください(笑)私はいまだアイルランドに足を踏み入れた事がないのですが、いつかは行きたいと思います♪


 by あすとる | Mar.21(Tue)01:33

抗体医薬って大変ですね。

抗体医薬は効くだけあってトラブルがおこると大変ですね。

 by tadashi | HP | Mar.22(Wed)12:08

     

>tadashiさん
今の薬の開発傾向として、どうしても遺伝子薬とか、抗体薬とか、より特異的に効くものになってきてますからね...何かあった時は非常に深刻になるのもやむなしなんでしょうが、まだまだ世間の理解を得るには遠い状況なので、これからが大変です...


 by あすとる | Mar.23(Thu)08:53


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